佼成学園・青木翼、元背番号1の最後の夏 <背番号1と10の物語>

佼成学園・青木翼、元背番号1の最後の夏 <背番号1と10の物語>

第100回目の夏、私にとって印象深い選手がいる。

彼の名前は、佼成学園の青木翼(投手・3年生)。

2017年秋の東京大会決勝戦

彼との出会いは、2017年の東京都秋季大会にさかのぼる。

試合は、秋季東京大会「決勝戦」。

ここで勝てば、小さな頃から夢見た「甲子園(センバツ)」のキップを確実なものにできる。

秋季大会の決勝は、日置航主将が率いる日大三と佼成学園のカードとなった。

 

この決勝戦、佼成学園は、9回まで日大三に1点をリードする展開だった。

あと「アウト3つ」。

あと「アウト3つ」で、小さな頃から夢見た甲子園の舞台。

 

この最終回・9回、佼成学園のマウンドを任されていたのは、エース背番号1をつけた青木翼だった。

しかし、この9回、青木は「アウト3つ」を取ることができなかった。

 

日大三の猛烈な追い上げムードを切るため、

青木のいるマウンドに駆け寄ったのは捕手で主将・江原秀星だった。

これまで支え合った女房役の江原は、青木翼の顔をじっと眺め、何かを伝えた。

青木翼は、それに頷いた。

 

決して一人じゃない。

一塁手の松下豪佑は、マウンド上の青木に大きな声を張り上げた。

日大三との決勝。

リードして迎えた9回、あと「アウト3つ」が遠かった。

 

佼成学園のエース青木翼は、降板した。

青木はベンチに戻ると、すぐさまベンチの最前列に立つ。

神宮球場の大観衆の前で戦う仲間たちに向けて、必死に声を絞り出した。

試合は敗れた。夢の「甲子園」に一歩及ばなかった。

 

試合後、背番号1の青木翼は泣き崩れていた。

泣き崩れた青木の肩を抱いたのは、先発した背番号18・中村陸人だった。

 

決勝戦で先発したのは背番号18・中村陸人。

実は中村は、17年6月にひじを負傷。

本格的に投球を再開したのが、この秋季大会の直前の10月だった。

準決勝の国士舘戦では、春以来の先発マウンドに立ち、好投。

中村陸人は「そろそろ青木を助けたいと思っていた」と語っていた。

 

「背番号18の中村」は、泣き崩れるエース青木の肩を支えた。

ここまで佼成学園の躍進を大黒柱として支え、そして、勝ち進んだのは「青木、お前のおかげだ」と。

二人の背中から、そんな会話を感じ取った。

秋季大会を終え、佼成学園は東京都の「21世紀枠」に選出されるもセンバツ出場は叶わなかった。


そして第100回目の夏が来た

あの秋季大会決勝戦から半年、いよいよ第100回目の夏が来た。

 

選手名簿から佼成学園のベンチ入りメンバーを知った。

背番号1・中村陸人。

背番号10・青木翼。

青木は背番号1から背番号10に。

中村は背番号1になっていた。

 

そして、第100回目の夏、初戦を突破した佼成学園を待ち受けていたのは、昨年ベスト4のあの「八王子高校」だった。

18夏、八王子高校vs佼成学園

2018年7月15日(日)、灼熱の立川球場。

西東京大会屈指の好カード「佼成学園vs八王子高校」を観戦しようと、

球場には多くの観客が駆け付けた。

立川球場は、立ち見多数、外野席も埋まった。



この試合、佼成学園の先発マウンドは、秋は背番号18の中村陸人(背番号1)が立っていた。

3点を奪われるものの、粘り強い好投を続けた。

試合は、終盤まで接戦にもつれ込んだ。

 

8回表、八王子高校が3-1で佼成学園をリードする苦しい場面。

その時がきた。

それまでブルペンで準備を重ねていた彼が、いよいよマウンドへ。

立川球場に、投手交代を告げるアナウンスが流れる。

 

ついに背番号10の青木翼がマウンドへ。

 

あの秋季大会の日大三との決勝戦。

「あと3つ」のアウトが取れずに、無念の降板となった「背番号10」のエースがこの舞台に立つ。

 

8回、投手交代の場面。

マウンド上で、先発の背番号1・中村陸人が、背番号10・青木翼の胸をポンと叩いた。

「頼むぞ」、そう思いを込めて。

青木翼が、夏の大一番の舞台にあがる。

 

この瞬間、私はカメラ越しでじっと彼を見つめていた。

青木翼は、マウンドに立つとバックスクリーンの方向を向いた。

2~3秒目、じっと、想いを巡らせた。

青木は、「圧巻」のピッチングをみせた。

8回・9回と2イニングをピシャリと抑える好投。

それは、観るものを熱くさせる想いの込もった投球だった。

俺たちの夏は終わらせない。



いよいよ試合は、9回裏へ。

佼成学園は3-1と2点のリードを追う展開。

ここで、佼成学園は粘りを見せる。

4番・松下豪佑がヒットを放つなどし、3-2と1点差。

9回裏、あと1点。

ベンチから、そして三塁側応援席からの大声援が、満員の立川球場に響きわたった。

この場面で、佼成学園は、代打。

固唾を飲んで見守った。俺たちの夏は終わらせない。



試合は終わった。

佼成学園は3-2で八王子高校に敗れた。

歓喜に沸く八王子、涙溢れる佼成学園。

 

試合終了後、佼成学園のメンバーを少し離れたところから見つめていた。

 

ユニホーム、顔は泥だらけだった。

その泥だらけの顔に、大粒の涙がつたっていた。

 

青木翼がいた。

青木は、背番号1・中村陸人の肩を抱いていた。

あの時、中村が青木の肩を抱いていた時のように。

 

中村は号泣していた。

青木は柔らかな表情で、中村の震える肩を抱いていた。

支え合って過ごした、彼らの最後の夏は終わった。

あの秋、あとアウト3つ。

夢に見た甲子園のキップをつかむことができなかった佼成学園・青木翼。

 

様々な思いが溢れたのかもしれない。

青木が天を仰いだ時、その帽子のつばには「信じろ」の文字が刻まれていた。

 

あとアウト3つが取れず、たどり着けなかった夢の舞台。

この最後の夏、青木翼が合言葉にしてきたのは「信じろ」だった。